オルゴールは大きく分けてシリンダーオルゴールとディスクオルゴールとに分けられます。
シリンダーオルゴールの故郷はスイス、そしてディスクオルゴールの故郷はドイツです。
そのドイツで、1880年代の終わりにシンフォニオン社が設立され、続いてシンフォニオン社を
やめたスタッフがポリフォン社を創立しました。ともにドイツ、ベルリンから南西に約300km
のところにあるライプツィッヒという町です。
その後1892年、ポリフォン社はアメリカにレジーナ社を創りました。レジーナ社は最初ポ
リフォンのオルゴールを輸入して販売していましたが、その後レジーナ社独自のオルゴー
ルを製造し販売を開始しました。その他にも色々なメーカー、ブランドが誕生しました。
モノポール、カリオペ、コメット、アドラー&フォーチュナー、ブリタニア,などなど…。
その中で、シンフォニオン、ポリフォン、レジーナの3社が、ビッグスリーと呼ばれ当時この
3社でオルゴールマーケットの90%を押さえていたと言われています。
ディスクオルゴールを発明したと言われている人で有名なのはシンフォニオン社を創った
ポール・ロッホマンとエリス・ペール。アンティークオルゴールが好きな方でしたらこの名前、
なんとなく聞いたことのある名前だと思います。
特にロッホマンは後にシンフォニオン社から離れロッホマンオリジナルというオルゴールを
出しているのでご存知の方も多いと思います。
実はその二人がディスクオルゴールを発明する前に、ディスクオルゴールの大基となる機
械を発明し、特許を取っていた人がいたのです。その人の名は、Miguel Boom。ハイチ共
和国の人でした。1882年、回転するディスクに釘のような突起をつけて音楽を演奏させる
機械を作りました。しかし商売には結びつかず、その約3年後に前述の二人が現れ、多く
の改良をして特許を取得、ディスクオルゴールを産業として育てて行きました。
1886年に最初のディスクオルゴールが作られましたが、その時はボール紙のディスクでし
た。翌年には金属のディスクになり、その2年後には、後の全てのディスクオルゴールに
使われているスターホイールが発明されました。ディスクの突起が直接櫛歯を弾くのでは
なく、このスターホイールを介して櫛歯を弾くことで、また同時に二つの櫛歯をはじく事
ができるようになった事で、より力強い、さらに広がりのある深い音色を奏でる事が可能
になりました。
シリンダーオルゴールは職人の手作業による産物、ディスクオルゴールは工業生産による
産物、と言えるかもしれません。ディスクオルゴールはシリンダーオルゴールに比べて量
産が効くようになり、価格的にもより多くの人に愛されるようになりました。
機種も様々な物が作られました。ディスクサイズが直径4 1/2インチ(11.5cm)の小さな物
から28インチ(70cm)を越える大きな物まで。テーブルタイプ、アップライト(縦型)タイプ、
コンソールタイプ、ホールクロックタイプ、複数のディスクを同時に演奏してより複雑な
演奏をするもの、自動的にディスクを交換して演奏するもの、ベルをいっしょに演奏する
もの、ディスク1枚で1回転目と2回転目では違う演奏をするもの、コインを入れて演奏
するもの、音を出す金属の櫛が1枚のもの、2枚のもの、時には4枚のものなど、各メー
カーそれぞれ特徴を持たせた商品を世に送りだし競争にしのぎを削りました。
オルゴールの人気がシリンダーからディスクに移っていくと、シリンダーオルゴールメー
カーの経営は厳しくなってきました。そこでシリンダーオルゴールメーカーもディスクオ
ルゴールを生産するようになってきました。

その中でも特に注目されるのがスイスのメルモードフレール社です。メルモードフレール
社は機械の部分を製作し、そのほとんどをケースを付けずに機械だけをヨーロッパ、アメ
リカへ輸出していました。それぞれの輸入国でケースが作られ、ミラとステラの名前で販
売されました。ステラはディスクの裏に突起を持たない、穴が開いているだけのディスク
を使って演奏する全く新しいメカニズムを採用し、なおかつ他では出せない美しい高音の
演奏を実現しました。ミラの音色もとても素晴らしく、ステラとミラはポリフォン、シン
フォニオン、レジーナと並んでディスクオルゴールを代表するブランドになりました。
この他にも、メルモードフレール社はディスクリフティングシステム(ディスクの一回転
目と二回転目で、異なった演奏をするシステム)を採用したメカニズムを載せて、ニュー
センチュリー、シリオンというブランドのオルゴールも登場させています。 (つづく)